
2011年(平成23年)の東日本大震災や2016年(平成28年)の熊本地震、毎年のように発生する梅雨時の集中豪雨など、かつてない頻度で自然災害にみまわれるようになっています。
住宅ローンや自動車ローン、カードローンなどを借りた状態で自然災害に被災すると、二重ローンなどが生じることとなり、再スタートが難しいことは珍しくありません。
自然災害の被害に遭った個人を救済する仕組みとして定められているのが、債務整理を申し出る枠組みである「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」です。
今回は、カードローンにも大きく関わるこのガイドラインを見てみましょう。なお、文中の「自然災害」は、2015年9月2日以降に災害救助法が適用された自然災害に限られます。
災害直後の生活の救済を目的とした「災害救助法」
生活を広範囲にわたり破壊することもある自然災害では、いくつかの段階に分けて生活の再建・自立のサポートがおこなわれますが、その中でも最初期の生活再建をサポートするのが、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を含む、「災害救助法」です。
災害救助法はその名前の通り、災害に際して国が主体となって地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に必要な救助をおこない、災害にかかった者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とした法律です。
災害救助法による救助は、都道府県知事がおこない(法定受託事務)、市町村長がこれを補助しますが、必要があれば救助の実施に関する事務の一部を市町村長がおこなうこともあります。
災害救助法の対象となるのはどんな人?
最初期の生活再建の支えとなる災害救助法には、心身だけではなく金銭に関するサポート(自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン)も定められています。
対象となるのは、2015年9月2日以降に適用された災害救助法が定義する自然災害の被災者で、一定の要件を満たした個人です。詳しい内容や実際の手続きは借入先金融機関との合意(同意)や法的手続きが必要となるので、詳しい内容はローンの借入先に相談する必要があります。
災害救助法に基づいた債務整理の流れ
自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインに基づいた手続きには、基本的には通常の債務整理と同じような手続きですが、一部異なる部分があります。その流れを大まかに見てみましょう。
手続き着手の申し出・専門家による手続き支援の依頼
最も多額のローンを借りている金融機関などへガイドラインの手続き着手を希望することを申し出ます。金融機関からは借入先や借入残高、年収、資産(預金など)の状況などが聞かれ、必要な事項を確認し終えた日が手続き着手の申し出日としてなります。
「登録支援専門家」による手続きの支援
手続き着手について金融機関から同意が得られたら、地元弁護士会などを通じて自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関に、「登録支援専門家」による手続き支援を依頼します。
この登録支援専門家は弁護士や公認会計士、税理士などの専門士業が登録されていますが、弁護士以外の士業は一部の手続き支援ができない場合があるので、注意が必要です。
債務整理(開始)の申し出
ガイドラインにもとづいて金融機関などに債務整理を申し出ることで、申出書のほか財産目録などの必要書類を提出します。書類作成にあたっては「登録支援専門家」の支援を受けられます。
ガイドラインにもとづいて債務整理を申し出ると、通常の債務整理と同じように、手続き中の返済や督促は一時停止されます。ただし、手続き着手に同意を得られた後も、債務者が対象となる要件に当てはまらないことが明らかになれば、債務整理不成立となることがあります。
「調停条項案」の作成・提出
登録支援専門家の支援を受けながら金融機関との協議を通じて、債務整理の内容を盛り込んだ書類(調停条項案)を作成して、登録支援専門家を経由して提出します。調停条項案を受け取った金融機関は、1カ月以内にその内容に同意するかしないかを回答します。
特定調停の申し立て・成立
調停条項案の内容で金融機関との同意が得られれば、そのあとは通常の自己破産と同様に、簡易裁判所に対して特定調停の申し立て(特定調停手続き)をおこないます。特定調停手続きにより調停事項が確定すれば、債務整理が成立します。
自然災害が原因であれば、本人の過失によるものではないため、通常の債務整理とは異なり、個人信用情報に債務整理をした事実が報告・登録されることはありません。
ガイドラインにもとづいて手続きをするときの注意点
このように返済負担を大きく減らすことが期待できる災害救助法に基づく各種ローンの救済措置ですが、実際に手続きを受けるためにはいくつかの注意点があります。その注意点を見てみましょう。
申立先は契約している金融機関
ローンの救済措置に関するガイドラインや手続きの流れは一般社団法人「自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」が定めています。
そのため救済措置の申し立てもこの機関にすればいいと思いがちですが、あくまでガイドラインの策定機関であり、実際の手続きはローンを契約している各金融機関が対象となります。
費用負担は債務者本人の負担
また、理由によらず手続きとしては通常の債務整理と同様の手続きとなるので、各種費用負担は債務者本人の負担となります。
おわりに
軽いとはいえない各種ローンの返済負担ですが、自然災害により大きな被害を受けると、その負担は一層重くなります。
少しでも早い生活再建のためにも、負担を軽減するための仕組みについてはあらかじめ知っておく必要があると言えるでしょう。