
日銀のマイナス金利政策に伴う低金利の長期化により、公的資金の注入を受けた地方銀行の経営が苦しくなっています。
2017年3月期の決算では、公的資金注入を受けた9地方銀行のうち8行が、金融庁に提出した収益目標を達成できずに終わりました。
経営環境が悪化する中で地方銀行が新たな融資先として注力しているカードローンですが、今回の収益目標の未達はカードローンにどのように影響するのでしょうか。
金融面での安全網を目指した「改正金融機能強化法」
「金融機能の強化のための特別措置に関する法律(金融機能強化法)」は金融システム安定化を目的として、地方銀行や信用金庫、信用組合などの地域金融機関に対して公的資金を注入する枠組みを定めた法律です。
2004年(平成16年)の成立当初は2008年(平成20年)3月末までの時限立法でしたが2008年に起きたアメリカのサブプライムローン問題に対応するために一部改正、注入条件の緩和や保証枠の大幅拡大などがおこなわれました。また、2011年(平成23年)の東日本大震災の被災者・被災企業に安定した資金供給をするため特例措置が設けられています。
成立当初、2兆円の政府保証枠が設定された金融機能強化法ですが、経営強化計画を達成できない場合は経営責任を厳しく問われることなどから利用は低調であり、適用はわずか2件にとどまりました。しかし2008年の一部改正により保証枠が6倍の12兆円に拡大、公的資金の注入条件も大幅に緩和され、申請が活発になっています。
収益目標の未達と日本銀行(日銀)のマイナス金利政策
2009年3月以降、改正金融機能強化法に基づいて9地方銀行が公的資金の注入を受けましたが、そのときに返済の原資となる「コア業務純益」の目標値を盛り込んだ経営強化計画を提出しています。
2016年3月期では9行中6行がこの目標値を達成していましたが、2017年3月期はわずか1行にとどまりました。その背景には、2016年2月に日本銀行(日銀)が導入した「マイナス金利政策」が影響しています。
マイナス金利政策は、市中銀行からあずかる預金の一部に対して、マイナス金利を付与することで市中に流通する資金量の増大を狙って導入されました。その狙いとは裏腹に銀行収益に大きな打撃を与え、景気の低迷を招くこととなりました。銀行が新たな融資先の開拓に失敗したことで、投資を国債に集中していることがあげられます。
公的資金の注入を受けた銀行はコスト削減を中心とする収益改善を目指したと報じられていますが、投資先の開拓に積極的ではなかったことで収益の低迷が続いているのです。
新たな融資先として注目を集める銀行カードローン
地方銀行はこれまで、地域の中小企業を主な融資先とする企業向け融資を中心としていました。しかし1990年代のバブル崩壊とその後の景気低迷により中小企業の資金需要は低迷、さらに「貸ししぶり」や「貸しはがし」によるダメージは大きく、1990年代後半には銀行の経営不安や経営破綻が相次ぎました。
公的資金の注入などの経営支援と合わせて、銀行もそれまで企業向け融資から個人向け融資を重視する方向にかじを切りました。その中でも特に注目されたのがカードローンです。
消費者金融カードローンの穴埋めとなった銀行カードローン
個人の資金需要を満たすカードローンはそれまで消費者金融がほぼ独占していましたが、相次ぐ不祥事や裁判によりイメージ悪化や規制強化が続き、消費者金融が縮小した部分を銀行が埋める形で銀行本体がカードローンを提供するようになりました。
現在では銀行カードローンの貸付残高は消費者金融カードローンの貸付残高を上回り、その差はますます大きくなっています。
急速に実施されている銀行カードローンの規制強化
しかし、銀行カードローンの貸付残高が急速に大きくなったため、かつての消費者金融カードローンで起きたようなさまざまな不祥事が起こり、2017年3月には全国銀行協会が自主規制の申し合わせをおこなうなど、急速に規制強化が進んでいます。
目標未達は銀行カードローンの利用にどう影響する?
このように急速に普及・規制強化が進み、銀行の新たな収益源ともいえる銀行カードローンは、公的資金注入を受けている地方銀行もそれぞれ独自のサービスを提供しています。
今回の目標未達により収益構造の改善が本格化すると、銀行カードローンを含む融資強化が進むことが考えられます。そうなれば自主規制の枠内でこれまでよりも活発に銀行カードローンの融資強化が進む可能性があります。
おわりに
公的資金の注入という救済策を受けている地方銀行は限られていますが、銀行の収益改善は共通の課題として取りざたされています。
今後、公的資金の注入を受けた地方銀行がどのような方針をとるのかは要注目と言えるでしょう。