
25日に与党・自民党の政治資金団体「国民政治協会」の2015年版の政治資金収支報告書が公表されました。
数多くの個人・企業名が並ぶ中で特に注目を集めているのが三菱UFJフィナンシャルグループ(三菱UFJFG)と三井住友フィナンシャルグループ(三井住友FG)、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)の3メガバンクです。
アベノミクスの失速やマイナス金利政策などで業績に向かい風が吹く中で、18年ぶりに政治献金を再開した意図はどのようなものなのかを探ってみましょう。
18年ぶりの政治献金再開とその背景
11月26日付の朝日新聞の報道では、
25日に公表された自民党の政治資金団体「国民政治協会」の2015年の政治資金収支報告書によると、前年から約8千万円増えた企業・団体献金のうち、6千万円が3行が再開した2千万円ずつの寄付だった。
引用:「政治献金は年賀状」 3メガ銀、18年ぶり再開:朝日新聞デジタル
と増額分のほとんどが3メガバンクからの献金であると報じられています。その背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
銀行合併と公的資金投入、献金自粛
1990年代はじめのバブル景気とその崩壊は、「失われた10年(20年)」と呼ばれる長い景気低迷期の原因となり、銀行もその例外ではありませんでした。
「護送船団方式」と呼ばれた日本の銀行経営が崩壊した1990年代後半の金融危機では、巨額の公的資金の受け入れや銀行同士の合併を進めることで生き残りを図りますが、その一環として1998年から政治献金を自粛することとなります。
銀行合併や公的資金の返済が完了した2006年には再開も検討されましたが、法人税を納めるほど業績が回復していなかったことから、「国民の理解を得られない」として見送られました。
今回、18年ぶりに3メガバンクが政治献金を再開した背景には、2013年に法人税の納付を再開したことや、翌年の経団連の呼びかけにより、政治献金を再開する環境がととのったとの判断があると考えられます。
政治献金再開に関する銀行側の見解
政治献金について問われた全国銀行協会の国部毅(くにべ・たけし)会長(三井住友銀行頭取)は10月20日の記者会見での質問に対して、
わが国においては、少子高齢化、経済の成熟化、グローバル化が進むなか、日本経済の持続的な成長のために取り組むべき課題が山積しており、政治の果たす役割は大きい。こうしたなか、経団連においては、政治献金について「企業の社会貢献の一環として重要性を有する」、「政策本位の政治の実現、議会制民主主義の健全な発展、政治資金の透明性向上を図っていくうえで、クリーンな民間寄付の拡大を図っていくことが求められる」と整理されている。
当行(三井住友銀行)においても、企業市民として社会的責任を果たすという観点に立ち、その政党の政策が企業の健全な発展を促進し、日本経済の持続的成長に資するか、ということが政治献金を行う際の判断の重要なポイントだと考えている
引用:國部会長記者会見(三井住友銀行頭取) – 全国銀行協会
と述べています。
低迷する3メガバンクの業績と急がれる業態変換
このように18年ぶりの政治献金再開で注目されるのが、3メガバンクの業績です。
アベノミクスの失速や日本銀行の導入したマイナス金利政策などで、3メガバンクの2016年の業績見通し軒並み下方修正されているため、今回の報道を受けてメガバンクに有利な条件を引き出すための献金と想像をたくましくしている人もいるようです。
では、直近の企業業績と2016年の見通しはどのようなものでしょうか。
マイナス金利政策と世界経済の失速のダブルパンチを食らう銀行
「預金と貸し付けの金利差(預貸利ざや)で収益をあげる」という銀行本来の収益モデルは、日本銀行のマイナス金利政策で成り立たなくなり、新たな収益源として進められた海外進出も、世界経済の減速や円高進行で期待した収益を上げられていません。
四半期純利益は三菱UFJが32.0%減、みずほが16.0%減、三井住友FGが31.2%とそろって前年同期から悪化。本業のもうけを示す実質業務純益はみずほの4%増を例外に、三菱UFJは21%減、三井住友FGは31%減と大きく落ちこんでいます。
今期の業績は、三菱UFJFGとみずほFGは2ケタの最終減益、三井住友FGは最終増益としていますが、厳しい状況はこの先も続きそうです。
新たな収益源として注目される個人向け無担保融資
このように従来の銀行の稼ぎ方で儲けがでなくなっている現在、これまで重視されてこなかった個人向け融資が新たな収益源として注目を集めています。
2010年以降、経営が厳しくなった消費者金融各社が相次いでメガバンクの傘下に加わったことで銀行は個人向け無担保融資のノウハウを入手、相次いで銀行カードローンの提供をはじめました。
銀行カードローンは消費者金融カードローンと比べて大きな限度額と低い利率を武器に急速に貸付残高を伸ばし、カードローンに代表される個人向け無担保融資は銀行の新たな収益源として注目を集めています。
メガバンクの提供するカードローン
[table id=35 /]おわりに
18年ぶりとなったメガバンクの政治献金ですが、アベノミクスの失速やマイナス金利政策、世界経済の減速などにより、収益が落ちこむ中でのタイミングの悪い再開となりました。
その動向がどのようなものになるのか、今後は要注目と言えるでしょう。