
複数の弁護士会の綱紀委員会が、弁護士法人「アディーレ法律事務所」と所属する弁護士に対して「懲戒審査が相当」と議決したと報じられました。
「アディーレ法律事務所」は過去に過払い金返還請求に関わる不適切な宣伝を理由に消費者庁から行政処分を受けていますが、今回の議決はこの行政処分と関係しているとされています。アディーレ法律事務所の宣伝はどのような問題があったのでしょうか。
過払い金返還請求と法律事務所の関わり、アディーレ法律事務所の宣伝の問題点と、行政処分による影響を見てみましょう。
グレーゾーン金利撤廃と「過払い金返還請求訴訟」
そもそも今回の問題の原因となったのは、「過払い金」と「過払い金返還請求訴訟」をめぐる広告の内容です。トラブルの原因となったこの2つがどのようなものかをおさらいしておきましょう。
グレーゾーン金利と「過払い金」の発生
グレーゾーン金利とは、融資に関する法律である利息制限法の上限金利(貸付額に応じて15~20%)と出資法の上限金利(29.2%)の隙間に生じた、「合法ではないものの違法ではない(グレーゾーン)」金利です。
消費者金融を中心に広く適用されていたグレーゾーン金利は、最高裁判所がグレーゾーン金利の適用根拠とした「みなし弁済」に対して厳しい判断を下したことや、出資法改正より廃止されました。
また、債務者に対する救済措置としてグレーゾーン金利の適用対象となった返済のうち、金利部分に限って「過払い金」を認め、貸金業者に返還をもとめることができる特例措置がもうけられました。
過払い金を取りもどす「過払い金返還請求訴訟」
「過払い金返還請求訴訟」とは、「過払い金」の返還を求める法的手続きのことです。
借り入れをした貸金業者に関わらず、
・借入期間が5年以上
・金利が18%以上での借り入れ経験
があれば過払い金が発生している可能性は高く、弁護士や司法書士がこぞって取り扱う訴訟となりました。
アディーレ法律事務所の宣伝と行政処分の内容
過払い金返還請求訴訟を手がける法律事務所のうち、問題とされたのがアディーレ法律事務所です。
問題とされたのは「過払い金返還請求の着手金を一定期間無料にする」と期間限定キャンペーンのように宣伝しながら、実際は継続的に実施していた点です。
こうした宣伝手法は情報の受け手に有利さを錯覚させる「景品表示法違反(有利誤認)」に当たるとして、2016年2月に消費者庁から同様の宣伝を禁止する行政処分(措置命令)が下されました。
これを受けてアディーレ法律事務所の所属する東京弁護士会など複数の弁護士会は、アディーレ法律事務所と代表弁護士に対して「懲戒審査」が相当と議決しています。
弁護士の懲戒制度とその内容
弁護士および弁護士法人(以下「弁護士等」といいます。)は、職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときに、弁護士法56条に基づいて懲戒を受けると定められています。懲戒は所属弁護士会が、懲戒委員会の議決によっておこないます。
弁護士の懲戒手続きの流れ
弁護士の懲戒手続きは大まかに、
- 懲戒請求者からなされた請求を弁護士会綱紀委員会が審査(懲戒請求)
- 綱紀委員会の判断にもとづいて弁護士会懲戒委員会に審査を付す(懲戒審査)
- 懲戒委員会が請求された弁護士が懲戒の対象となるかも含めて処分の重さを判断する(審査請求)
という流れですが、アディーレ法律事務所は「懲戒審査」まで進んでいることになります。
弁護士に対する懲戒の種類
懲戒処分の対象となるとどのような処分が下されるのかは、弁護士法57条1項に「戒告」から「除名」までの4段階が定められています。
それぞれの内容を見ると、
- 戒告(弁護士に反省を求め、戒める処分)
- 2年以内の業務停止(弁護士業務を行うことを禁止する処分)
- 退会命令(弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動はできなくなりますが、弁護士となる資格は失いません)
- 除名(弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなるだけでなく、3年間は弁護士となる資格も失います)
となっています。
参照:懲戒制度の概要
2度目の懲戒処分?気になるアディーレ法律事務所の今後
綱紀委員会から懲戒委員会に審査が付される割合は5%前後、懲戒委員会の審査で懲戒処分が下るのは60%程度と言われています。
しかしアディーレ法律事務所はすでに2010年(平成22年)10月に懲戒処分(戒告)を受けているため、2回目の懲戒審査となる今回は、更に重い処分となる可能性は小さいものではありません。
追記:重い処分となった法人2カ月・個人3カ月の業務停止
10月11日に所属する東京弁護士会の処分の判断がくだり、アディーレ法律事務所は2カ月の業務停止処分、元代表の石丸幸人弁護士は1カ月長い3カ月の業務停止処分を受けることとなりました。
おわりに
過払い金返還請求訴訟が2016年に一段落したことで、過払い金返還請求訴訟をめぐるトラブルも徐々に表面化してきました。
今回のアディーレ法律事務所に対する懲戒審査がどのような内容になるのかは、カードローンに密接に関係している弁護士業の行く末をうらなう重要なポイントとなりそうです。